「蓄積したデータ資産」はデータシェアリングで新たな可能性を創造する

データは守るべきものから活用するべきものへの変貌を遂げる必要がある。 特に、信頼されたデータの利用はデジタルビジネスを加速させる。

これらにリスクを感じることもあるだろう。 データの誤用や蓄積したデータ資産が流出することなどがあげられる。

しかし、我々の考察によるとそれらは文化の創造、リスクの把握、テクノロジー等によって解決できる可能性がある。 例えば、データシェアリングのビジネスにおける必要性の定義を検討してみたり、何がリスクになるのか?というリスクの評価を行って実際にどれぐらいのリスクがあるか?を検証してみたり、ブロックチェーンを活用した信頼性の担保や、AIによる運用マネジメント、証跡管理などが挙げられる。

データの価値は?

デジタルビジネスが成功している状態とは、「デジタルビジネスで価値を創造している」状態と定義する。デジタルの特徴を考えた場合、データ化(可視化)されている事が最大の特徴である。これまでのビジネスでは、全てのデータが「守るべきもの」という前提でオペレーションされてきた。

しかし、「デジタルビジネスで価値を創造している状態」はデータを守るだけで実現できるものであろうか?以下の事例をご覧いただくと、ビジネスの規模やデジタルビジネスの加速のためには「データの共有によって生み出される価値」と「データ共有の文化を構築する」ことの大切さが理解いただけるであろう。

実体を持っている企業がM&Aやアライアンスを通じて企業価値を最大化しているように、データの価値を最大化するためにはデータとデータの間に信頼関係を構築し、発見する機会を増やす事でそれらを活用する文化の創造が必要不可欠なものとなってきている。

データ共有の従来の見方は否定的である

 従来の企業文化は、組織内であってもデータ共有に反対している。 データ共有を妨げる慣行は報われた。(データ共有を行わないことつまりデータを保護する事は、企業を守る行為という認識をされてきた。) その結果、データ共有に対しては懸念事項が多い事が一般的である。 データ共有を促進するために、組織はこれらのリスクと目に見えない恐怖を軽減する必要がある。 対処する必要のある一般的な懸念は、神経質な利害関係者、データ管理の懸念、ガバナンスポリシーの恐れ、ツールとテクノロジーの欠如の恐れ、および認識されている規制上の制約である。 専門家は、これらの問題に対処するために企業文化の変更を推奨している。 組織は、データを共有しないという態度から共有するという態度に切り替える必要がある。

幹部や組織はデータ共有についてリスクがあると認識をしているが、データ共有の有効性については無視できなくなる

 データ共有は、デジタルビジネスに関して特に重要であることが示されている。 データ共有は、AIのような高度な技術開発を加速する推進力であり、デジタルビジネスを成功させるために必要な洞察を生み出すために必要であると考えられている。 COVID-19に対応して、調査対象の経営幹部の69%が、組織がデジタルビジネスを加速していると回答した。 また、データ共有を促進する組織は、2023年までに同業他社を上回る成果を上げていると予測されている。この傾向にもかかわらず、組織の70%は、組織がデータ共有で効率的ではないと答えている。

 ほとんどの経営幹部は、データ共有が価値創造にとって重要であることを認識している。 世界中の政府も同様である。 調査結果は、内部および外部のデータ共有を促進するD&Aリーダーがより成功していることを示している。競合他社間でのデータ共有の事例があり、競合他社の競争優位性を高め、業界全体のデジタルビジネスを加速させている。

株式会社小松製作所は建機市場において世界初の実用化されたIoTである「KOMTRAX(コムトラックス)」を開発し、顧客の利便性を上げるため、競合他社とデータシェアリングし、より強いプラットフォームを構築することができた。GoogleやAmazonのような大手プラットフォーマの下請けにならないように、プロダクト戦略からプラートフォーム戦略への早期シフトを実現。建機市場のデータシェアリングが注目を集めることで、2017年に株式会社ランドログ(小松製作所、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティムの4社による合併会社)が誕生するきっかけとなった。

Penskeは、米国を拠点とするトラックリース会社である。 Fleet Insightというウェブサイトを立ち上げた。 顧客は自分のトラックデータをWebサイトにアップロードできる。これにより、顧客はトラックの効率、コスト、および日常のメンテナンスを調べることができる。 Penskeもデータを使用できる。 Penskeが受け取るデータは、トラックの動態管理とパフォーマンスを向上させることができる。 目標は、これにより最終的にPenskeが予測分析を利用できるようになることである。

HERE Technologyは、ドイツのさまざまな自動車メーカーが所有するオランダの会社である。 HEREの主な事業は、GPSデータを使用してマッピングデータを収集することである。 HEREは、そのデータをBing、Facebook、Yahoo、Amazonなどの企業にライセンス供与していますが、それらは他の目的でデータを使用している。 自動運転車の開発にも使用されている。 Volkswagen、BMW、Daimler、Mitsubishiは、HEREに関与している自動車メーカーの一部である。 このコラボレーションの理由の1つは、Googleなどの自動運転車の技術を開発しようとしている他の企業と競争することである。

上記のように企業だけではなく、各国政府間も積極的にデータシェアリングを行っている。

2017年エストニアとフィンランドは各国政府間のデータシェアリングのためNordic Institute for Interoperability Solutions(NIIS)研究所を設立しX-Roadを共同開発した。X-Roadはデータ交換を提供するオープンソースソフトウェアおよびエコシステムである。ヨーロッパの政府が徐々に国民を中心としてデジタル化を進めており、より良いサービスを提供するため各国政府間のデータシェアが重要だろう。その後アイスランドとフェロー諸島はNIISプロジェクトのパートナーになり、X-Roadの機能をもっと有効に活用されるだろう。

データシェアリングの課題と対策

 このように、データシェアリングの課題は複数取り上げられる。組織内のデータシェアリングにおいて、「データマネジメント」と「ツールとテクノロジーの不足」の二つの課題がある。一方、外部のデータシェアリングにおいては「規制の禁止事項」と「セキュリティのリスク評価」が主要の課題である。ただし、「利害関係者の抵抗」は内部と外部のデータシェアリングに共通する課題となっている。 そういった課題をどうやって対応するのか、下記の内容が考えられる。

データの所有権ではなく、データシェアリングの文化を醸成

 内部のデータシェアリングと外部のデータシェアリングの共通課題として、利害関係者の抵抗が取り上げられたが、この課題を解決するには、データシェアリングの文化を組織内ないし全社会の中で醸成しないといけない。  内部でデータをシェアリングすることにより、社内プロセスの効率向上、人材マネージメントや、売上の増加に役立つ。チャレンジするときには、組織をまたがって、合同に対応する必要がある。その際に、データを自分のところだけに蓄積しない仕組みを作る必要がある。データの蓄積は一般的な考え方だが、蓄積したデータに対応する計画がなければ、データの価値とデータ分析に対する投資のリターンも低下する。データシェアリングは運営の効率向上、コストの低減や顧客体験にいかなるメリットがあるのか、利害関係者に説明する必要がある。

データシェアリングのビジネス上の必要性を示す

 調査によると、データの使用を促進するデータ分析チームはより成功している。その内の大多数は、内部でデータをシェアリングすることにより、内部のプロセスを改善している。例えば、販売や製造、人材管理などを改善した。しかも効果は定量的に測れる。ただ、それだけでは十分でない。ビジネスの新しい価値を作るために、所有権や管理の及ばない組織とデータをシェアリングする必要もある。  上記の事例はビジネスパートナーとデータシェアリングすることで測定可能な経済的な利益を生み出していることを証明している。  ただ、調査によると、この比率はまだ31%に止まっているとのこと。  ビジネスパートナーデータシェアリングすることで、商品、サービスまたは有益な契約条件などにおいて、測定可能な経済利益を得ている。さらに、顧客に対して、製品やサービスの価値を高めて、カスタマーエクスペリエンスの向上に貢献している。  外部のデータシェアリングの対抗に対応するために、外部データシェアリングの成功事例の研究を積み重ねて、ビジネス上の必要性を浸透させる必要がある。

リスクを正しく評価

  調査によると、ツールとテクノロジーの欠如を成功への主要な障壁として報告している組織は、チームのパフォーマンスが低いとのこと。これらの課題を軽減するのに、テクノロジーではなく、マスターデータ管理、データカタログ、データ品質などに重点を置きたい。同様に、パフォーマンスの低いデータ分析チームは、パフォーマンスの高いチームよりもリスクとセキュリティの問題を障壁として挙げる傾向がある。リスクは実際より大袈裟で過剰に評価されることが多い。実際のリスクを客観的に評価するよりも、「リスクが高すぎる」と言う方が簡単ではあるが、それでは何も生まれない。規制違反またはセキュリティの脆弱性のリスクを対処するときは、「実際のリスク」と「自分が思っているリスク」を明確にする必要がある。多くの組織はリスク回避的すぎて、共有しないアプローチになっている。そのようなアプローチがデータのバリューと企業価値を推進する機会を喪失させてしまう。

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ここまで、データの共有の有効性、事例や課題、その解決策について調査、考察してきた。 抵抗する勢力に争うよりも、データシェアリングがもたらす可能性に目を向けるようなビジネスや文化、有効性の構築を行う事が、デジタルビジネス加速への有効なアプローチとなるだろう。