中小企業のデータ活用戦略

デジタルビジネスとデータ

データとは?

Oxford Languagesによると「それをもとにして、推理し結論を導き出す、または行動を決定するための事実。資料。」

「何か新しい取り組みを始めなければならない」 「でも、何をどう取り組み始めていいかわからない」

そんな時に役に立つのが「データ」です。

「専門家がいないから難しい」 「データが少ないから難しい」

これも大きな課題であるが、専門家に困っているのは大企業も同じであるとともに運用モデルで解決をできる可能性がある。近年のデータ分析のトレンドは「小さいデータと幅広いさまざまなデータ」となってきている。このようなデータであれば、中小企業でもデータを集められる可能性が高くなる。

デジタルで構成されたデータは、デジタルビジネスの強力なパートナーとなり指針を示してくれるナビゲーターにもなりえる。

デジタルビジネスとデータの関係

デジタルビジネスでデータを活用するということは、「データの山を元に推理して結論を出し、行動や組織の方針を決定したり、ビジネスとデジタルを融合することで成果を出すこと」と言い換えることができる。

本レポートを参考にしていただくと、デジタルビジネスとデータの事例及び運用モデルのサンプルがわかるので、今のビジネスデータを活用してどのようにデジタルビジネスへと進化をさせるのか?の理解が進む。

以下の事例のように、デジタルで構成されているデータとデジタルビジネスは切っても切れない関係となっている。

それでは、デジタルビジネスとデータの関係について以下に記載していく。

「今あるものをオンラインに置き換える」は間違い?

デジタルビジネスを検討する時に、今のビジネスをオンラインに置き換えたらどうなるのか?というアプローチで考えるケースが多いが、これは成功の可能性を低くする事になる。

一番大切な事は、今のビジネスがどうやって成り立っているか?を見直す事である。今のビジネスを分析してみよう。

・会社のミッション、ビジョン、バリューは何か?その達成度は? ・自分達の価値を高めてくれているものは何か? ・お客様が求めているものは何か? ・お客様が求めている事(お客様が自分達と関わることで得られる体験:UX)をデジタルで実現するとどうなるのか? ・自分達自身の課題が何で、それはデジタルビジネスを導入する事でどう変化するのか?

大まかにみてもこれらがポイントになる。 以下の事例では、中小企業でも実現可能なデータ活用及び分析についてまとめてみた。

実用的なデータ活用及び分析について(事例)

中小企業では、データと分析を利用することによって、業務改善や成長を推進することができる。また、データと分析を使用する際、一般的に4つの目標がある。

 ①データ品質と全社的な管理プロセス改善   ②エンタープライズプロセスと運用の最適化   ③CX向上とビジネスの成長の促進   ④製品イノベーションとデータの収益化の促進

上記の目標に対して、組織はどのようにデータを活用しているかの例を下記にて述べる。

1. データ品質と全社的な管理プロセス改善

 データの品質と管理の実践は、データと分析を通じて改善できる。組織は、データのタグ付け※1、新しいデータのオンボーディング※2、および反復データファイルの量を自動化して、減らすことができる。

航空会社には、お客様に関する多くのデータが蓄積されている。問題は、どのデータが有用なのかを見極めることである。サウスウエスト航空では、人気のある商品やサービスを発見するために、すべての顧客データをグループ化していた。しかし、期待したほどの結果が得られないことに気付き、別の方法に切り替えた。現在、サウスウエスト航空は、一人一人のお客様のデータに集中している。各顧客は、過去の購入履歴や過去の行き先など、150以上のデータ変数を持っている。これらのデータタグにより、それぞれのお客様がどのような行動をとるのかを予測している。その結果、サウスウエスト航空は200ミリ秒で各顧客にパーソナライズされた独自の提案ができる。 大きな競争相手の1つであるユナイテッド航空は、同様の方法の結果として、チケット以外の売上が15%増加した。  ※1 主催者がデータにキーワードを割り当てて整理しやすくする方法  ※2 オフラインデータをオンライン環境に転送するプロセス

2. プロセスと運用の最適化

 組織は、データ分析を使用して、エンタープライズプロセスと運用を最適化することもできる。 一部の組織は、データと分析を通じて、手動のデータ照合プロセスを、異常や不正を検出するアルゴリズムに置き換えることができた。 他の組織でも自動化されたワークロード管理ツールを作成して、従業員のプロジェクト管理とタスク管理を改善することに成功した。

Peachは定期的にデータを収集して分析を実施している。 分析から得た情報を使用して管理、サービス、製品、イベント、およびキャンペーンの改善を行う。また、販売分析、調査、および新しいサービスや製品の開発にも活用する。

データを使用してプロセスと運用を最適化する会社の例はSlackである。 顧客はSlackを使用して貴重なデータを送信するため、セキュリティはSlackにとって非常に重要である。 進行中のセキュリティプロセスの一環として、Slackはユーザーデータ、アカウント情報、使用状況情報、および場所情報を分析する。 このデータは、自動監視ソフトウェアを使用して潜在的なセキュリティ問題について分析される。

3. CX向上とビジネスの成長の促進

 さらに、組織は、顧客満足度、顧客維持、および売上転換率の形で成長を測定すデータと分析を使用することで、企業は組織の成長を促進することもできる。 顧客のフィードバックを分析し、営業チームのコミュニケーション戦略を改善する組織もあれば、機械学習を使用して顧客の行動を予測する組織もある。

2017年、ビルド・ア・ベア・ワークショップはデジタルビジネスを立ち上げた。 ソフトウェアを使用して、各顧客の状態を視覚化された全体像で見ることができる。 ビルド・ア・ベア・ワークショップはこのデータを使用して、デジタルだけでなく、ビジネスのあらゆる側面で優れたパーソナライズされた体験を提供してきた。 データは、物理的な場所、ソーシャルメディアのコンテンツ、および一般的なブランドを支援するために使用される。 努力の結果、ビルド・ア・ベア・ワークショップのデジタルビジネスは9四半期連続で2桁の成長を遂げた。

 4. 製品イノベーションとデータの収益化の促進

 最後に、組織はデータと分析を通じてビジネスのデジタルイノベーションを推進している。 組織は、分析処理を使用してデータ駆動型の意思決定を行うとともに、予測モデリング※1を使用して製品の欠陥を見つけ、現在の機能を改善し始めている。

FICO社はクレジットスコアサービスを提供している。データを収集して人々のクレジットスコアを作成し、その結果をさまざまな金融機関に販売している。大量のデータを持つFICO社にとって、データに素早くアクセスできることは重要である。そのために、クラウドサービスを開発したり、AIや機械学習の技術に投資している。2019年には、AIや機械学習に関する特許を100件以上出願した。これらのツールにより、顧客はリアルタイムにデータにアクセスできるようになった。また、AIと機械学習によって、顧客は、差別化されたデータを探索することで、新たなインサイトを発見し、予測モデルを構築し、ソリューションを迅速に展開できるようになる。このようにして得られた有用なデータやインサイトは、貸し手に販売される。

 ※1 統計を使用して意思決定の結果を推測するモデルを作成する

運用モデル(プロセス・ワークフロー)

【step1】データドリブンビジョンを立てる

 covid-19で、人間の行動は過去とガラリと変わった。顧客の行動が見にくくなり、営業活動が困難になってきた。企業の運営も、対面で行ってきた業務が、リモートワークとなるにつれて、今までのプロセスの実行が困難になってきた。しかし、一部の企業はこの危機をきっかけに、一気に成長することができた。それは、データドリブンの重要性をすでに認識し、機敏性を生かした企業である。  データは運用のプロセスを改善し、意思決定の質を上げることができる。さらに、企業資産として、ビジネスモデルのシフトを推進することができる。これは大手企業だけではなく、中小企業にも適用できる。企業の経営者は、データ戦略が企業全体の目標に貢献することを認識し、データドリブンのビジョンを立てないといけない。データ戦略は今までITの一部に過ぎないと思われているが、ITと同様な重要性を持つようになるため、データ戦略を担当するCIOやCDOのポジションを設定する必要もある。

【step2】スモールスケールでスタート 

 近年、アジャイルという言葉はとても流行っている。データ戦略にもアジャイルの適用が最適である。大手企業はアジャイルをやろうとしているが、中小企業は自身の規模や指示系統でより早くアジャイルを展開することができる。

 中小企業は大手企業と比べると、規模が小さく、投資可能な資本も限られてる。しかしながら、これは必ずしもデメリットになるとは限らない。今、データは、ビッグデータからスモール&ワイドに切り替えるトレンドがあり、中小企業でもデータ活用する機会が増えている。また、スクラッチ開発は費用と時間がかかるし、変化への対応するスピードも遅いため、ベストの選択ではない。現在、技術の進歩によって、多種多様なニーズを満たすツールが沢山出ている。中小企業にとって、気軽に利用できるツールも増えているため、自分のニーズに合わせて、とにかく様々なツールを利用してみた方がよい。     中小企業はデータ戦略を実行する際に、最初範囲を絞って、スモールスケールで開始することをお薦めする。最初のデータ戦略は、実現したいビジネス成果から、プロセスの改善、意思決定それともビジネスシフトのいずれを優先するか?を決定する必要がある。範囲を絞ったら、測定可能な指標メトリクスを策定する。利害関係者を招集し、評価を行う。データは一部の人のみならず、なるべく全員にデータを使用する権利と権限を与える。企業全体のデータリテラシーとデータ文化の醸成を図る。大企業と中小企業に関係なく、データ人材不足している。しかし、中小企業は一気に投資して、多数のデータサイエンティストを抱えることは難しいが、通常の採用と同時、フリーランス活用の道も推薦したい。

【step3】データドリブンを運用し組織に定着させるループを実践する

 ビジョンを設定し、スモールスタートで開始をした後はいわゆるPDCAの内PDCが揃った状態となる。Actionとしては、スモールスタートで実施した内容を評価するところがスタートとなる。

代表的な自らへのAction(問いかけ)は以下のような内容となる。

・データドリブンビジョンとのズレがないか? ・実施した内容は、企業の業績に良い影響を与えられるか? ・データ化指標の数は十分か?拡張するべきか?絞るべきか? ・利害関係者からの意見はどのようなものがあったか? ・データを利用した人は十分か? ・データドリブンビジョンが組織に行き渡っているか?  これらを必要なメンバーで協議し、スモールスタートを行った際の設計に反映させる。 この時点から、データドリブンビジョンまで戻る必要はない。ビジョンは先を見据えるための目標であり、スモールスタートではじまったサイクルを回す際にはそこまで戻してしまうと目標がずれていることになる。もし、この時点でデータドリブンビジョンがずれている場合は、スモールスタートの機動性を活かして全てやり直しをするという選択をしても良い。

 以上の問いかけに答えが見つかれば、Step2とStep3を繰り返して徐々に範囲を広げていく。この手法は、Step2で述べられたアジャイルの手法であり、企業に置き換えればリーンスタートアップの手法とも共通する手法となる。

 アジャイルだからPDCAが無くスピードが速いという表現をしているレポートもあるがPDCAが個々のメンバーの中に浸透しているから必要ないのであって、本質的なアジャイルの手法ができないうちは、組織に定着させるループを実践する方が現実的であろう。